思い記し生き抜く準備~内藤いづみさん冊子に「ノート」~
山梨日日新聞2021年2月20日より。
在宅ホスピス医で、ふじ内科クリニック(甲府市)の内藤いづみ院長が、コロナ禍での活動をまとめた冊子「2021年を生きていく!2020年からの心の橋渡し」を発行した。最近の雑誌への寄稿やラジオ出演を通して発信した、ホスピスケアでの学びや思いを収載。巻末には生き抜く道のりへの準備と覚悟を記すもの」と位置づける「いい塩梅ノート」を付けた。「日記のように毎日書き加え、眺めて、人生の輪郭をはっきりさせてほしい」と話す。
コロナ禍を「いろいろなことを犠牲にしなければならず、忍耐が試されている」と語る内藤さん。人が生き方を見つめ直す時間にもなっているという。「これまで物質的な豊かさが求められ、地味に生きていく大切さが置き去りにされていた」。幸せで元気に生きていくにはどうしたらいいか。「人間が人間であるのは、人を思う心を大事にするから。苦しみや悲しみもあるけど、人を思う心を前向きな力に変えてほしい」と言う。
例年は全国各地に招かれ講演を行っているが、感染症の拡大後は軒並み中止に。
冊子には、寄稿文やラジオ番組でのインタビュー内容を載せていて、講演ができない中でも限りある命に寄り添う日々を発信している。「それぞれの患者さんには違う文化を持ち、人生を支えた家族がいる。
一つ一つの命に学びがあり、その物語をみんなに知らせたい」との思いがある。
余白ある言葉
「いい塩梅ノート」は、思いを書きとめるもので、「人生の輪郭を確認して、希望を持てるものにしてほしい」と作成した。
〃生みの親〃は、患者だった有泉有友さん(中央市、享年83歳。認知症でがんだった有泉さんは専門職らによる最後のケア会議の場で「いいあんぱいでお願いします」と穏やかにあいさつし、一筋の涙を流したという。「あんばいは自分も相手も追い詰めない、余白のある言葉と内藤さんは感じている。
「これまでの臨床経験で大事だと思ったことを、さりげなくちりばめた」内容で構成。過去と今をつなぎ、未来を考える項目を設けている。
「過去」では大切な写真3枚を選び、本や音楽などの人生のベスト達を記入する。
「現在」は好きな服や映画などのほか、人間関係や伝えておきたい言葉を書き出す。「自分の人生を輝かせ尊厳あるものにするのは何か、本質に気付くヒントになる」と説く。
託す人明確に
整理すると、やるべきことも見えてくる。「未来」は病気になったときにどうしたいかなどを記す。意思を通すには、経済的なことだけでなく支えてくれる人が必要で、周囲を大切にしないといけないということも分かる」
最後には重い認知症になる前に残しておきたい言葉のページを用意した。自分の意思表示が難しくなったときに選択を託す人を明確にし、その決断を感謝して受け入れる旨を表明するものだ。
「一生懸命支えても家族は後悔の念を持ってしまうものだけど、(表明があると)決断した人の救いになる」。周りへの愛情を残せるという。
その時々で好きなものや考え方、気持ちは変わる。「日記のように少しずつ書いておくと、心を整える練習になる」と勧める。