エッセイ

こちらから、あちらへ

いよいよ寒風です。
体にこたえますね。しかし、銀杏の金色が目にまぶしいです。


先ほど、お一人の女性の人生の最期に立ち会ってきました。
91歳。

お母さんが大好きな娘さんが、細やかに一生懸命介護しました。
病院での積極的治療を終了し、家に戻るタイミングを掴んで帰ってきたのが20日前。
「帰って良かった!」というのが彼女の帰宅の第一声でした。
みんなが笑顔になりました。
ずっと安らかに、笑顔で過ごせるように私たちもいのちを囲んでいきました。
やがて、少しずつ旅立の様子を見せてきました。

入院中に、旅たちでお母さんの着る着物を用意した娘さん。
きっと泣きながら用意したんだなろうな、と思えました。
そんな覚悟があっても、目の前のいのちが消えていくのを見るのは、心震え、辛いことです。
やがて、寝たり起きたり。そして寝る時間が長くなりました。
この世とあの世の境の時を過ごしているように思えました。
この時は川が海に入る汽水域と似ていると話しました。鳥取のなのはな診療所の徳永先生に聞いた言葉です。

時にはもう亡くなった、身内が見えた、などという人もいます。
この世とあの世が混じっていく時。汽水域で真水と塩水が混じるように。
微妙なバランスで。
逝く人がおかしくなったわけではないのです。
ゆっくりとその人の生きてきたように時を刻んでいく日々。

娘さんの握る手を優しく離して、91歳のその人は天国に旅たっていきました。
外では、枯れ葉がくるくると風に舞っていました。

内藤いづみ