エッセイ

世界の片隅のACP!

僻地診療所で午後半日働く日があります。
だんだんと顔見知りもできました。

箱に入ったじゃがいも
その診療所に、山奥のEさんが自分で育てたジャガイモを娘さんと持って来てくれました。
三年前に一緒に御主人を家で看取りました。
山奥で私にとってその村への往診は遠いものでした。
そこはいわば限界集落。
でも夫婦には大切な歴史のある暮らしの場所でした。
奥さんは少し歳をとりました。
82才。
でも独り暮らしを続け農作業も頑張っています。
彼女のこれからが気がかりになり話をふりました。
どうしたいですか~と。
必ず来る未来の話し。
ボケたり体がきかなくなったら施設しかないと寂しそうにいうので、短期の重い病だったらお父さんのように家に最期までいたい?
と聞いたら、
できたら!
と目が輝きました。
私が往診するからと伝えると娘さんとふたりで喜んでくださいました。
その時は助けてくれる看護もありますから。
お父さんの時のように。
娘さんが安心しましたーと笑顔になりました。
こうして病院の一室で交わされる、何だか冷たい雰囲気を醸し出すイメージのある、ACPアドバンスケアプラニング、事前意志確認と計画などという手続きが、田舎の診療所でジャガイモをみながらさらりと行われ、しっかりと未来のためにふたりで指切りをしたのでした。

内藤いづみ