看取ったあとに詠める
90歳を越えるまで自立してひとり暮らしをしてきた女性。夫を送ってからは20年ひとりくらし。それが本人の望み。息子二人は県外だった。
様子はよく見守りこの二年は長男がよくそばにいたという。
介護保険のサービスでデイ・ケアに行くようになったのも最近のことだった。
そして手遅れの癌が見つかった。
治る治療の選択肢はないと言われた。
本人の希望は家にいること。
長男が覚悟を決めて私に相談に来た。
私の家からも近く、在宅ケアを引き受けた。
痛みを緩和する。吐き気を和らげる。
本人のやりたいことを尊重する。
訪問看護師たちも優しくケアを続けてくれた。
こちらの世界から彼岸へ旅たつ時、人それぞれの時間の過ごし方がある。
残ったエネルギの発散が多動や落ち着きのなさになることもある。
薬剤で眠らせるのではなく、本人が力を使いつくし、安らかな昏睡に至るのを待つには忍耐力がいる。
究極の命のスローペース。
命を見守り信じる力。
初めての経験の介護者は疲れはて、ギブアップしたくなる。
それを応援するのも私たちの大きな仕事。
あと少し、もう少し、と。起きているのは怖いことではないと~見事な大往生へあと一歩。旅立ちまで生き抜く命のやけどしそうな熱さを共有する。
女性のがんばりに息子さんは見事に寄り添い、やがて安らかな昏睡になった。
女性は二日後に旅立った。
全く後悔はありません、と息子さんは涙を流した。この方の家は私の近所。
通りすがりに目をやる。
息子さんは自宅にもどり、いまは誰もいない。
家もまた息づかいを止めたかのようだ。
慣れない俳句を詠む。
秋露に いのちに寄りて 朝に夕
菊こぼれ みとりし家に 影消えて
半世紀 暮らしたすまい 音も逝き
内藤いづみ
(俳句のご感想をいただきました。ありがとうございます。)
素晴らしい命の輝きでしたね。命を生ききる事を教えてくれた方でした。先生、俳句素晴らしいです。
____________
自分のことと重ねて、拝読しました。息子さん2人は県外…
早くに夫に先立たれて、1人暮らしの高齢女性。
私の母は、まだ78才で元気で気丈ですが、実家に帰るたびに、「その時」のことを考えます。
母がいのちのエネルギー最後まで出し切るまで寄り添う覚悟。
こちらもエネルギーが必要ですね。
11月に久しぶりに帰省するので、「いのちに寄り添う」のDVDを母に見せながら、ゆっくり語り合いたいと思います。
看取り俳句。深いですね。私からも一句。
「散りてなお腐葉土となり継ぐいのち」
「在宅で、過ごした日々は宝物」