種まく人~在宅ホスピス医からのいのちのメッセージ~
旭川青年大学学生だより第34期8月号(2016年8月)より
永六輔さんはこの旭川青年人学で7回講演をされ、今日も永さんと一締に来る予定でした。
永さんが最初に私に教えてくれたことは、「偉ぶるな」ということ。そのためにはちゃんと患者のもとへ足を運ぶことだと仰っていました。
みなさん命とは何だと思いますか?
永さんは「命は時間が動いていることだよ。時問が止まった人は死んだ人。小さい時から死ぬ時まで、自分の宇宙、人との関係がずっと続いて、命は時問と人間関係の中にあるんだよ」と言いました。「暮らしの中に人の命を感じなさい」という永さんの教えを胸に頑張ろうと思っています。
永さんはたくさんのことを知っていて、いろいろなところで種をまいて、いろいろな文化活動を応援していました。
種をまくのは偉い人や才能がある人だけでなく、みなさんも大切な希望の種を何処かで絶対にまいています。
でもその種はみなさんが生きている間には発芽しないかもしれない。有名な画家や作曲家の中にも、生きている問は全く評価されず極貧の中で死んでしまった人もたくさんいます。
私は、反骨精神旺盛でいろんな人とぶつかりながら、この30年間ホスピスを学んできました。一番の応援者は永六輔さんでした。
永さんは20年前に。言いました。新しいことを始めると反発を受け叩かれるけど、でも大丈夫、在宅ということと「命の限られた人を助けるホスピス活動は、将来絶対必要になる」と。
国は今、裏があるのかと思うくらい「家に帰れ、家に帰れ」と言っているでしょ。もう大きな病院では緊急時以外死ねないと思ってください。人生の最期をどこで過ごすか、誰に助けてもらうのかを今からしっかり考えないととんでもないことになります。
ある日、永さんが熱愛していた素敵な奥様が余命3ヶ月のがんと分かった時、永さんは「君はどうしたい」と聞きました。奥さんが「家にいたい。この大好きなソファで残された日々を送りたい」と言ったそうです。永さんと家族はその思いを支えたんですね。すごいと思いませんか。
永さん白身も病気が重くなった時、「ぼくも家だよ」「僕の医療チームを作るよ」「君たちに頼むよ」と言っていました。永さんは「大往生」というベストセラーの本を書かれましたが、家族に囲まれながら安らかに、正真正銘自宅での大往生を遂げたのです。それは、永さんがずっと学んで選んで家族に伝えていたからです。永さんは威張らず、権威に依らず、庶民の中に喜びを見出す生き方で、ほんとうに大往生でした。にっこり笑って旅立ちました。
家で亡くなることができない状況の人もたくさんいます。誰かが「助けて」と言った時、自分はほんの少しでも助けられる手段を持っているか、そして自分が「助けて」と言った時、助けてくれる仲問かいるかどうか考えてください。何かが起きたときでは遅いんです仲間や友人、地域のケアマネと相談したりして、元気な今のうちから考えてください。
イギリスで研修していた時、ホスピスを興したシシリー・ソンダースさんに、「がんの人が一番怖いのは何だと思いますか」と聞かれたことがあります。若かった私は「痛みです」と答えました。しかしシシリーさんの病院を見学すると、どの病室にも苫しんでいる人はひとりもいませんでした。
末期がんの苦痛を和らげるため積極的にモルヒネを使っていたからです。当時の日本ではモルヒネは最後の最後に斷末魔に苦しむ患者さんに使う怖いイメージの薬でした。
今はがんの痛みに苦しむ必要のない時代です。もし患者を苦しめるものがあるとすれば、それは勉強不足の医者です。ではどうするか。今、一生懸命勉強している専門看護師さんが全国各地で増えています。そういう人にまず聞いてください。
みなさん、例えば「余命100日」と宣告されたら、すごく嫌ですよね。そういう医者の言葉は信用しないでください。まじめな人ほどその通りに死にます。「そんなことあるもんか、もっと生きてやる」と反発しないとだめです。私の関わる患者さんは、他の病院での余命告知からだいたい3~4倍生きています。
「自分のやりたいことをやる、わがままを聞いてくれ」と言ったとき不思議なことが起こります。
ある患者さんは昏睡状態になってから5日目に目が覚めました。何かの原因で蘇ったんです。彼の親友は喪服を持って会いに来ていました。親友を見た患者さんは「よう」と声をかけ一緒に水割りを飲みました。きっと臨死体験をしていると思い「何で戻ってきたの」と聞いてみたら、「川の傍まで歩いて行って船に乗ろうとしたら、鼻先でおいしい酒の匂いがした」と言うの。
そこで娘に聞いてみると、「父はお酒が大好きで、最後にお酒をあげようとワインを脱脂綿に含ませて囗を拭いたら喉に入り、むせて目が覚めたんです」というんです。それから好きなようにお酒を飲んだりカラオケをしたりして過ごしました。そして10日後、家族が犬の散歩に行っている間に、患者さんは安らかに息を引き取っていました。
こういうことは在宅で願いを聴いてくれる家族がいなければできませんし病院ではできないことです。
在宅で看取っている時、娘さんのおなかにいた赤ちゃんがすくすくと成長し、18年後私のところにやって来て「先生、私はおじいちゃんに会っていないけど、おばあちゃんとお母さんがすごく話をしてくれるから、おじいちゃんに会ってたような気がするんです。不思議な最期の日々を支えてくれてありがとう、私は勉強して看護師さんになりたいんです。応援してください」と言いました。(抜粋)