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幸せに近づくために

毎日が発見 2008年11月号より

 「いのち」とは何だろうとずっと小さい頃から考えてきた。周りの大人は生活することに忙しそうで、そんな質問になかなか正面から答えてくれそうもなかった。「いのち」を学ぶことのできる医学の道をめざすことを決心したのは14歳の時。18歳で医学部へ入ったが、それからの道は平坦ではなかった。私の学生の頃の医学教育と臨床では、「死は敗北である」という空気が充満していたように思う。医者も患者も死の話題を避けていた。私の目からみると治らない段階を悟り始めた患者さんたちは心暗く辛そうだった。患者さんの役に立てないと感じる医療者たちも悲しく不幸せそうだった。病気でなくても、万人等しく、限りあるいのちを与えられた私たちが死を絶望と捉えず、幸せに近づく方法はあるのだろうか、とずっと考えてきた。
そして自分の感性に従って、患者さんの役に立てそうなことをお手伝いしようと決めた。それが25年前、23歳の末期がんの女性を在宅で看取る初めてのホスピスケアの仕事となった。生活の音と香りで過ごした最期までの3ヵ月間、本人も家族も私も穏やかで平和な気持ちに包まれていた。永遠の別れが待っていたが、出会えたことが幸せだった。以後、25年開私のホスピスヘの道は真っ直ぐに続いている。
25年間でたくさんのことを患者さんたちに教えてもらった。
 以下の3つが「幸せに近づく」3ヵ条ではないかと感じている。

①人の幸せと比べない。
今の日本では、物質的な豊かさがそのまま幸せにつながると思っている人が多い。どんなに贅沢なものを持っていても、その人自身の心が平和で満たされていない限り幸せにはなれない。
幸せは、恐れから解放され、今を感謝できる時に姿を現す。その時自分に与えられた恵みに感謝する気持ちが自然に湧いてくるはず。人とは比べられないのだ。ところで、私が好きな道を歩んでいるせいで、質素なライフスタイルを送っている家族には、申し訳ないなあ~と時々思う。しかし、「幸せは内容なのだ。持ち物ではなく!」と開き直り、家族に心から感謝する毎日。だから私は幸せ。

②人のせいにしない。
自分の人生に向かい合うためには、自分の人生の主人公にならなくてはいけない。人のせいにしたり愚痴っている限り幸せはみつからない。結果は自分の責任。

③欲張らない。
欲望は無制限で心に渇きをもたらす。自分が今持っているもの、出会った人をみつめ直してみよう。それは何と貴く大切なものか気づく。一杯のお茶、一杯の水でも心から「美味しい」と思えば幸せになれる。
 「ありがとう」の笑顔を周りの 人にたくさん出してみよう。
  自分に与えられた身近なものの輝きに気づいた時、一番幸せになれる。