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「いのちを伝える在宅ホスピスケア」を聴講して

あいちホスピス研究会」会報 ほすぴす66号より抜粋
文章 森クリニック 森智弘様
 内藤いづみ先生はイギリスでのホスピス研修の経験の後、故郷の山梨県で開業し在宅ホスピスケアを行っているわが国でも有名な女性の医師です。


 在宅でのホスピスケアというのは口で言うのは簡単ですが、ケアサービスを提供する側にとっては精神的にも肉体的にもしんどいことの連続です。ときにはケアする側が燃え尽きてしまいサービスの提供が長続きしない場合がありまうす。
 私は開業医で日常診療の合間に毎日往診を行って癌の患者さんをはじめ年間何人かの患者さんを看取っています。私は勤務医時代には癌末期の患者さんと向き合っていくことにそれほどの疲れを感じませんでしたが、開業後在宅医療をしてみて一番大変なのは末期癌の患者さんと神経難病の患者さんだと感じていました。
 癌という病気は、「診断して治療してそれで終わり。」という病気ではありません。運がよければ治ることもありますが、治らなければ死に至る病です。
 癌患者さんのお宅から請われて初めて往診したときなどは、家族全員が漠然とした不安感のなかでビリビリとした雰囲気で患者さんを取り囲んでいるのを見て、癌が「家族全体の病」であることをつくづく感じます。
 最近では国の方針で「がん拠点病院」が整備され一方で、入院医療費のDPC(いわゆる「まるめ」)が導入されたため、抗がん剤が効かなくなった時点で病院から見放され、いわゆる「がん末期難民」となって私のところに紹介されるケースが目立ちます。
そのような場合我々医師は患者さんの在宅緩和ケアをしつつ、終点(患者さんの死)から逆算し家族に対し「死への準備教育」をしながら来るべき日に備えようとします。
ところが、当の患者さんやご家族はまだまだ死などは考えておらず、民間療法などに希望を求めて延命治療を希望される場合があります。このような場合麻薬などの緩和ケアを素直に受け入れていただけない場合もしばしばあります。こうした双方の意識のギャップの間で往診医や訪問看護師が神経をすり減らして燃え尽きていくことがあります。
 私が癌の在宅医療に疲れを感じていたそんなときに、内藤いづみ先生の講演を聴く機会がありました。
 内藤先生の講演の趣旨は、一言で言えば「死は敗北ではない。『いのち』は切れるものでなくつながっている。そのいのちを支えるのがホスピスケアである。」ということでした。
「たとえ末期の患者さんが最後の最後に昏睡になって口が聞けない状態になっても、われわれが患者さんとスピチュアルな交流を保とうとし、見つめ合うことができればきっとその人のいのちはつながっていく。」言う強いメッセージを受けました。
 「いのちの真実を伝えたい。」という強い思いが、内藤先生が継続して在宅ホスピスケアを行っていく原動力になっていることが先生の講演を聴いてよくわかりました。
 今回の内藤先生の講演は先生の体験談が中心でしたが、患者さんや家族と本音で寄り添うことの大切さと喜びが伝わってくるすばらしい講演でした。まさに、「いのちの現場をみた人の言葉は胸に伝わる。」ということをしみじみと感じ、明日からの在宅診療にエネルギーを注入していただきました。