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最期のときを家族と ウチッキリの輪

「死も命の一部」もしくは「生も暮らしの一部」。そう感じたときに、病人も家族も恐れから解放され、命のエネルギーを回復するのではないかと思っている。


 近所の和菓子屋の主人だった上山猛さん(76)は、甲府市にカステラ初めて伝えた人だという。「味も評判だった」と奥さんが言うと、本人もうれしそうに笑った。この十年来、半身まひがあり、半年前に発見された肺がんが進むと、寝たきりに近くなった。奥さんは季節ごとに、ご主人譲りのおいしい和菓子の注文を受けていた。
 ご主人はお盆近くに危篤になった。いよいよ息遣いも荒くなった。奥さんはそれを気にしながら、注文の安倍川もちを次々とのしていた。一生懸命働く奥さんのエネルギーが、病床までひしひしと伝わってきた。
 「奥さんのお菓子作りの腕も上がってきましたよ。ずっと家にいられてよかったですね。皆いるから安心してください。今夜はこれでさようなら」
私が耳元で言うと、昏睡状態の上山さんが少しまばたきをして涙がにじんだ。きっと、聞こえたのだと思った。その明け方、静かに息を引き取った。
 在宅ケアは外来診療のひとつだから、後期高齢者はどんなに診療を受けても、負担は一般的な所得の人なら、1カ月1万2000円が上限だ。費用はそれで済むが、最後のーカ月は介護者が密着する必要がある。
 「核家族です。子供は遠くにいます。老々介護です。どうしたらいいでしょう?」などという声も聞く。しかし、今後は重病人も家に帰ってくる。高齢者施設も待ち時間が長く、すぐには当てにならない。乗り越えるには、元気なときから人脈を作っておくのが第一。隣人や友人のネットワークの再構築だ。
 私も、出会った患者さんとの永遠の別れが続くのはつらく悲しい。しかし、それでも元気なのは、思い出を共通項に、ご家族とのかかわりが続くから。
 先日、ある家族が友人にこう話したという。「91歳のおばあちゃんは、家で幸せに亡くなったよ。毎日身内も集まって、介護の日々はにぎやかで楽しかった。何より、今では内藤先生がウチッキリのようで、とてもうれしい」。
ウチッキリはこちらの方言で「仲間、内輪」を意味する。私も支える一旦となれたのだ。皆さんもウチッキリの輪を広げよう。
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2008年10月20日 産経新聞より抜粋