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最期の迎え方は今

2014年11月5日朝日新聞より
最期を自宅で迎えたいと願う、がん患者が多いと思います。現状はどうですか。
これまでは病院で亡くなる場合が多かったのですが、医療費を削減するための国の方針で、患者さんを病院からなるべく自宅または介護施設に戻す流れになっています。

141110_01命の最終章を自宅で迎え、会いたい人と濃厚な時間を過ごし、家族にみとられるのが理想です。しかし、家族の中には、時間的にも精神的にも余裕を持って介護できる存在はなかなかいない。実際は、介護施設やグループホームなどで最期を迎える例が増えています。自宅で家族にみとられるのは、幸運なことになっていくでしょう。
 私の診ている患者さんの割合も、10年前は自宅と施設でといえば、場所は自宅だと思われていましたが、最近は施設を含めた「自宅の雰囲気に近い住居」の意味でとらえられています。

温かいみとり 施設でも
それでも、家族のいない環境は不安なのでは。
そうとも言えません。施設での生活に慣れ、ヘルパーや職員といった「家族に近い人」に最期をみとられる人が増えてきました。
在宅は、看病や介護をする家族の負担が大きいですが、施設では家族も患者さんも安心できます。家庭的なぬくもりのある施設で、親しくしているヘルパーや職員にみとられるのは、決して悪いことではないと思います。

熱心なヘルパーや職員は、少なくありません。介護を受ける人の自立心を尊重し、最終章を迎えるための協力をしていく立場。今後はそのための倫理観や死生観が、より教育されていってほしいです。

家族の心構えとして、何が必要でしょう。
みとりを、施設で他人に頼む可能性があることを、お互いが元気なうちに話し合うといいと思います。施設でも、親しい人たちに囲まれるのであればいいのでは、という点を確認してみるのです。

また、末期になったとき、どう対応するか。本人が元気なうちに、延命治療について文書で意思表示する「リビング・ウィル」を考えることも必要です。

末期医療の課題は。
緩和ケアでは、施設で患者さんの痛みをやわらげるため、モルヒネなどの医療用麻薬を使うことも普通に起こります。しかし、施設や家族の問で、薬をどう管理するかが解決されていません。
医師の質も問題。末期がんで治る見込みがないとわかると、患者への態度が冷たくなり、「緩和ケアは知らない」と投げ出す医師もいて、怒りがわいてきます。私が在宅ホスピスを始めて20年になりますが、医師の倫理観が改善されてきたとは思えない。苦しむ人に手をさしのべる、そんな医療教育が足りません。
昨年から、厚生労働省の 「がん対策推進協議会」の委員を務めています。国の指針として、がん対策を病院だけに依存せず、また、介護を家族だけに頼らないように、地域全体でケアをする医療への転換を図ろうとしています。
施設も、温かいみとりができる所が増えてほしい。家族への協力の働きかけも大切です。そう変わらなくてはいけないし、変わりつつあると思います。