エッセイ

イギリスのある地方風景 2014年8月

その1
日本の平均寿命が延びて世界のトップになっています。しかし、ただ長生きするだけではなく、老化現象と上手く付き合いながら心身共に健やかに幸せに暮らす、「健康幸福寿命」を皆さんに目指して頂きたいと思っています。

日本では介護保険が整備され、多くの高齢者とそのご家族が支えられています。甲府の町でも朝夕はデイケアの送迎バスが多く行きかいます。(幼稚園バスはめっきり少なくなりました)イギリスには介護保険はありません。では、どんな風にイギリスの老人たちは暮らしているのでしょうか?
私は30年以上前、イギリスで数年暮らしてホスピスケアを学びました。イギリス人たちの気風と文化も少しわかっているつもりです。
何より日本のお年寄りたちとどこが違うのか?
いささか大胆ですが、私の個人的な意見を申し上げると、それは「自立心」だと思います。
同時に、「頑固さ」に裏打ちされたものですが、彼らはお世話されすぎるのが嫌いなのです。なるべく自分のことは自分でする、という点です。子どもと同居する、ということは前程になっていませんが、子どもが近くに住んでいることは多いようです。

今回は8月の夏休みに再訪したイギリス中部の町のことを少しお伝えしましょう。
イギリスというと皆さんすぐロンドンという大都会が思い浮かぶかもしれませんが、一歩離れて田舎に行くと、酪農と農業が盛んに営まれています。羊も牛も馬もたくさん目にします。
庭のあるお家にはリンゴの木が植えられています。
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イギリスはEU(ヨーロッパ共同体)に参加していますので、ヨーロッパからの野菜やフルーツも豊富に出回っています。北アフリカからも多いそうです。私が訪れたのはベルパーという人口2万人ほどのイギリス中部にある町です。夫のふる里です。世界初の紡績工場が1912年にできた町で、産業革命の始まりとなった歴史的スポットです。この地域は世界遺産に登録されています。丘に点在する村々も素敵です。
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どこに行っても紅茶はおいしい。
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町の中心はパン屋や八百屋が並んでおり、大きなスーパーマーケットもあります。
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この春にJAフルーツ山梨の理事になってから、私は何処に行ってもフルーツについ目がいきます。日本の立派なフルーツを見なれた目にはびっくりしますが、フルーツはどれも小さく、品種改良もされず、高度に手が掛けられていない形で店頭に並びます。量り売りでリンゴも1個から買えます。桃もリンゴも直径6~7センチ。当然安いです。
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シャインマスカットのようなブドウも2パック99ペンス(2房180円)。お年寄りがそんな安くてかわいいサイズのフルーツを買って行きます。もちろん味も素朴で良好。日本では付加価値の高い、農家の皆さんの努力で手の掛かった素晴らしいフルーツを当たり前のように見ますが、イギリスではそんなフルーツは都会の超高級デパートで、大富豪や貴族にしか売れないように思えました。
スーパーにはもちろん体の具合の悪そうな高齢のお年寄りもたくさんショッピングに来ています。必死で買い物をひとりでしている人も見かけました。会計ではそんなお年寄りが手間どっても誰も焦らずゆっくり待ってくれます。
文化も生産性も、社会の歴史も経済も違う国ですから、簡単に比較はできませんが、ゆったりとした時間が流れ、高齢者が自立の努力をする姿を目の当たりにして感銘を受けました。お年寄りが自立するためには、自分がひとりで行ける範囲に買い物ができる店があることが大切ですね。日本では買い物弱者と呼ばれる老人が増えています。
日本で立派なリンゴを手にした時、イギリスの八百屋さんで見た小さな小さなかわいいリンゴを思い出して、思わず微笑むこの頃です。
どちらの国でもみんな幸せを目指して頑張って生きています。

その2
義母の家は100年以上経っていて、何より素晴らしいのは窓から見える風景が変わっていないこと。雲と丘陵を眺めるとまるでターナーの絵のようです。
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90歳の義母は芝刈りも重い掃除機も使いこなし、自立した暮らしぶりをみせてくれました。もちろん食事も自分で作り、きちんと食べています。
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今回は一日だけ大都会ロンドンに出掛けました。目的はふたつ。セントポール大聖堂とシェイクスピア劇場・グローブ座でリア王を観ること。
セントポール大聖堂は、まさに威風堂々の言葉がぴったり。多くの偉人、王族の霊びょうの役目も大きいのですが、この姿を見上げる時、ロンドンっ子たちの胸は高まるようです。
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その気持ちがよくわかります。とにかく特別な感じがします。
ベストセラー小説『ブラックアウト』と『オールクリア』には第2次世界大戦中のセントポールをドイツの爆撃による火災から守り抜く市民消火隊の姿も出てきます。
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ミレニアムブリッジの傍には、その勇敢な消火隊の像がありました。セントポールはロンドンっ子の誇りなのです。
さて、グローブ座はシェイクスピアの当時の劇場を再現してあります。とても不思議な空間でした。そこに居ると、300年前の世界に居るような感覚さえ湧きました。
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役者と観客が一体となるその演出。立ち見席は舞台のかぶりつきでもあり、3時間の長丁場を皆さん立ったままニコニコと乗り切っていました。
今回はもうひとつおまけがありました。
私の家族にも人気のシェフ、ジェイミーオリバーのレストランに行けたことです。ジェイミーは「イギリス料理はまずい!」という先入観をぶち壊した人物のひとり。コベントガーデンというところにある「ユニオンジャック」という店です。私はローストビーフサラダを頼みました。
コベントガーデンは女優オードリーヘップバーンが花売り娘として登場した『マイフェアレディ』の舞台です。
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今も庶民の集まる場所で、いつもかなりの賑わいです。
地下鉄(チューブ)を乗り継いでセントバンクラス駅へ移動し、ベルパ-への帰路に着きました。
ふ~ ロンドンを味わった充実の一日でした。