「今日もいい日」口に出す
読売新聞2013年10月19日より
読書の秋とはよく言ったものです。私も読みたい本を暑い夏からたくさん積んで、さわやかな秋の訪れを待ちました。たとえば……。
「エストニア紀行」梨木香歩
「腰ぬけ愛国談義」宮崎駿・半藤一利
「ブラックアウト」コニー・ウィリス
「もしかしてぼくは」内田麟太郎
「あなたは、あなたのままでいてください。」鈴木秀子
「大津波を生きる」高山文彦
永六輔さんの「お話し供養」だけは、夏の暑さの中読みました。今は亡き親しい方々(渥美清さん、坂本九さん、中村八大さん、立川談志さんなど)の生き方、そして死に方が伝わる本です。そのおひとり淀川長治さんは、周りを笑顔にする名人でした。朝起きると「○月○日、今日はかけがえのない大切な一日。笑顔で過ごす!」と声を出したそうです。それを読んで、昔、在宅で看取った食道がんの84歳の男性を思い出しました。
体力のぎりぎりまで庭に水をやり、自分が亡くなった後、咲くだろうチューリップの球根を植え込んで過ごしました。いつも穏やかで、一日の終わりにひと口飲む焼酎の味に破顔しました。愚痴は言いませんでした。
亡くなった後、枕の下から広告の裏に書かれた日記が見つかりました。亡くなる3日前に「今日もいい日だ。前向きにいく」と大きな字で書かれてあったのです。だんだん食べられなくなって痩せていった姿を思い出しながら、「おじいちゃん、すごいねえ」と家族は思わず泣きながら拍手をしました。人間の生き抜く強さを皆が教えてもらいました。
できそうで、できないこと。皆さんも朝起きたら、布団の中で背伸びをしてにっこり笑い、「今日も一生に一度の素晴らしい一日。明るく過ごす!」と声に出して一日を始めてみませんか?
秋の夜長、音楽もいいですね。泉谷しげると女性シンガーたちの「昭和の歌」もお薦めです。このCDの締めくくりは、もちろん我が師匠、永六輔「見上げてごらん夜の星を」。