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他者とのつながり

12年前の鎌田實さんとの対談です。本からの抜粋。ある予備校の小論文のテキストに使われていました。
今、読んでも、我ながら今日的な課題を投げかけていると感じます。
私もしつこく同じ視点で頑張ってきました。そしてこれからも!
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内藤 これだけ経済的に豊かなのに、みんなすごく不安なんですね。どう生きてどう死んでいくかということに対しても不安が強く、介護保険導入でどうなっていくのかわかりませんが、今のところますます不安要素が大きくなっているような気がします。
情愛が保険点数化されて、お金でのサービス関係になってしまっている。どんなに福祉が進んでも、愛情はお金には換算し得ないものでしょう。
どんどんドライになっていく気がしますよね。やはり、不安なく安心して生きられる21世紀にするために、私たちに何ができるか。
私たちは、医療という狭い枠のなかで専門家としてやっていくわけだけれども、それを拡げて、人間が安心して生きられるようにしなければいけないと思います。

鎌田 ぼくは、結局それは「つながる」ということだと思いますね。20世紀の医学は、臓器を診る、細胞を診ると小さな方向へ進んできたわけです。細胞のつながりとして臓器があり、臓器のつながりとして人間がある。さらに人間のつながりの最小単位として家族、また家族は地域というつながりの中にある。「つながり」のなかで生きることを実感することが、内藤先生のいう安心なんだと思います。だから、医療もその点を考えないといけない。そうすれば、寝たきりのお年寄りをどう支えるかも解決するだろうし、若い人の病気についても、悪いところだけを診るのではなく、つながりのなかで生きる人間として患者さんをとらえることで、温かな医療が取り戻せるのではないかと思うわけです。

内藤 ホスピスケアの分野で言えば、身体が元気であれば、いのちに限りがあるという事実を毎日自覚して生きている人はあまりいませんよね。その点をもう一度考え直すことをスタートに、自分の周りに対する関わりを深めていくのが、私の仕事の柱かなと思うんですけど。
私のところで働いて、普通の訪問看護ステーションに移った看護婦さんが、「これまでの医療の視点では痛みはとれないですね」って言っていました。痛む部分だけを診て処置しても、痛みはとれない。その人の宇宙に視点を置かない限り、末期に限らずどんな痛みも緩和できないと言うんです。モルヒネを使えばいいというだけの問題ではないんですね。

(内藤いづみ『内藤いづみ対談集 あなたと話がしたくて』オフィス・エム2001年刊より)

(注) 対談者は、内藤いづみ(在宅ホスピス医)、鎌田實(元諏訪中央病院管理者)。ホスピスケアとは、「がんなどの末期患者の身体的苦痛を軽減し、残された時間を充実して生きることを可能にさせるとともに、心静かに死に臨み得るようつとめる医療・介護」のこと、モルヒネとは「鎮痛剤の一種医療用麻薬」。なお「保健婦助産婦看護婦法」の一部改正により、2002年3月より、「看護婦」の表記が「看護師」と変わっているが、ここでは原文のまま引用した。