「いい塩梅」で人間らしさを
山梨日日新聞2024年12月17日より
甲府・ふじ内科クリニック院長の医師、内藤いづみさんが、新著「いい塩梅でサバイバル」を刊行した。
いい塩梅は「〇か×ではない、みんなが許し合って見つける着地点」であり、人間にしかできない、みんながほっとできる社会の知恵だという。
新型コロナウィルス禍で社会のデジタル化が進む中、そうした人間らしい領域を、困難な時代を生き抜く力にしてほしいという願いを込め、最期に寄り添った患者や家族から学んだ「命の物語」をつづった。
コロナ禍でデジタル化が進んだことによって、「人間が人間である領域を奪うところまで行くのでは」と危機感を募らせているという内藤さん。
「白か黒か」をはっきりさせるようなデジタル社会は、人と人が向かい合うことが減り、間違いを許す寛容さが失われていくと危惧。
「ささいなことも機械経由でできてしまうけれど、便利さには副作用がある。人とのつながりを切ったり、人と向かい会わなくなったり。でもその先に人間の尊厳が生き残るのか」と疑問を投げかける。
生きる力に
「いい塩梅」は、かつて内藤さんがみとった男性から、「いい塩梅でお願いします」と託された言葉。
「のりしろがあり、逃げ場があり、余裕がある、人間らしいやさしい空間」と考えている。
デジタル化に加え、気候変動による災害も相次ぎ、追い詰められて、苦しい気持ちの人も少なくない。」そうした時代に、「いい塩梅」の文化を伝えていく必要を感じていたという。
本書では、「いい塩梅」の生みの親である男性を含め四つのエピソードを掲載。本人を含めたみんなの選択だと納得して患者を支えた家族。
がんと付き合いながら生きることを決めた母親と、母親を失う怖さを抱えながら自宅での最期に寄り添った娘の日々など、患者や家族が命と向き合う姿がつづられている。
「一生懸命、命に向き合ってみとれたとき、グリーフケアは既に始まっていて、生きる力にできる」と語る。
綿密な準備
身寄りがなく、「最後の友人」として寄り添ったおばあちゃんも登場する。おばあちゃんを通して、望んだ最期を迎えるには当事者の意思だけでなく綿密な準備が必要なことも見えてくる。
それぞれの患者や家族と齟齬した日常の風景も、多くの写真で紹介している。
「みんなに、その場にいるような思いを味わってもらえるといい」
と話す。
巻末には、今の自分や病気になったときの考えなどを記す「いい塩梅ノート」も付けた。
「今をどう生きるかというガイドブック。人間のいのちは深さがあり、機械が出した選択肢を選べばいいのではない。命に向かい合い、いい塩梅のワールドを大切にしてほしい」