エッセイ

桜のころに


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「桜」について語りだせば、ずっと昔から日本人の生死観に行きつくほど特別の花だ。
私が研修医の25年前、病院の近くの上野公園まで医局全員で花見にでかけた。福島から上京したばかりの24才の私。さくらの美しさより、その下に集まる人出にとにかくどきもをぬかれた。
上野の桜はあまりおぼえていない。それにどういうわけか私たちの周りには公園のホームレスのみなさんが集中して大勢集まって待きしているように感じたのだ。そんな私の耳に届いたホームレスのみな様の声~
「いやあ、この人たちののんでいるお酒がここでは一番上等だ。そのへんじゃみれない高級ウィスキー、ブランデー、ワイン、大吟醸・・・すごい品ぞろえだぞ ゴクン」
このみなさんは私たちが帰ったあとののみ残しをお待ちになっているようだった。確かに東京のどまん中の有名な病院。部長先生たちは、いなか出身の私もみたことのないお酒の贈答品をたくさんお持ちだった。
桜の「美しさ」ということでは結婚をきめたすぐあと親友と一緒に歩いた千鳥が淵の満開の桜を思い出す。花びらひとつひとつがきらきらと輝いてみえた。
昨年20年ぶりに息子の入学式で同じところを夫といっしょに歩いたが、花びらはあの時ほど輝いてみえなかった不思議と。(心理学、脳医学的な説明は今回は省いておくけれど・・・)
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さて90才の中田さんの往診を始めて1ヶ月。病気は深刻なものだが、家族に囲まれて病状は落ちついている。話がゆっくりとできる日もある。家中に飾られた写真から長年の趣味が写真であることがわかった。お願いしてご好意でいくつかお借りした。桜の写真も多い。どうぞひと時の桜をみなさんもお楽しみ下さい。
平成19年3月23日 内藤いづみ