エッセイ

ホスピスについて

今年もよろしくお願いします。寒風の中、1月はあっという間に過ぎそうです。
インフルエンザもかぜもはやりそうな気配で、予防のためにうがい手洗いがんばりましょう。
寒さの中、縁ある方から高校生の手記が送られてきました。
励まされます。今年も地方への出張を続けてまいります。


「ホスピスについて」
旭川高校生 上西のどかさん
第57回青少年読書感想文全道コンクール 優良賞
第56回旭川市児童・生徒読書感想文コンクール 優秀賞
私は将来看護師になりたいと考えている。看護師である母の影響が大きいのかもしれない。母が何度か内藤いづみさんの本を読んでいるのを見て私も手に取ってみた。
ホスピスという言葉は高校生の私にとってあまり馴染みが無かった。本を読んでいくとホスピスというケアが患者さんの残された人生をどれだけ充実したものにするか知った。内藤先生が診察した患者さんは病気が治らないとわかっていても残りの人生を自分の好きなことをして生き生きと過ごしていた。病院で自由の利かない生活を送り、痛みに苦しんで亡くなっていく人がいる中で人生を最期まで楽しく過ごせるのは長い短いに関わらず素晴らしいことだ。
私は中学生の頃、内藤先生の講演会に行ったことがある。初めて聞くターミナルケアやインキュラブルなどの言葉を理解できずにモニターに映し出される画像と内藤先生の説明を聞いていた。難しい医療システムは分からなくても内藤先生が診察した患者さんのお話は印象に残った。みんなが大切な家族に見守られて静かに息を引き取っていた。苦しまなかったこと、そばに居られたことは患者さん本人にとっても家族にとっても幸せだったに違いない。私はそういう環境を提供できる医療従専者が理想だ。
内藤先生がホスピスを学んだイギリスの医療は日本とは大きく違うと知り驚いた。テレビドラマを見ているとほとんどの病気の人が病院に入院したまま亡くなっている。日本ではそれが普通と考えられていると思う。しかし、イギリスでは自分の病気がもう治らないと分かってから大好きなガーデニングをしたり、旅行に行ったりする人が多いそうだ。私にはイギリスの人々の過ごし方のほうが幸せに思えた。
もしも自分が病気になってもう治らないと分かったとき、最初は言葉にならないほどの悲しみや怒りや絶望感にさいなまれるだろう。家族も心配や不安で心細くなってしまう。しかし少し時間が経って病気と真剣に向き合うことができたら残りの人生をどう過ごそうかと前向きな考えが生きることに希望を与えてくれるのではないか。
本で取り上げられている患者さんは末期がんの人が多かった。がんには想像を絶する痛みを伴う。がんの痛みを取るときには医療用麻薬が使われるが、私の麻薬に対する考えは間違っていた。私が麻薬と聞くと依存のイメージが強く深刻な症状を思い浮かべた。内藤先生が受け持った患者さんの家族と同じだった。実際は、量を調節して使うので依存症になることは少なく痛みを取ることで深刻な病状を避けていると知った。こういうことは一般の人にはあまり知られていない。私のように間違った考えを持っている人がたくさんいるかも知れない。がんは日本人の2人に1人がなると言われているほど身近な病気だ。
私たちはもっとがんに関心を持ち正しい知識を身に付けなければならないと思う。
私の父も一年半前にがんと宣告された。しかも、がんだと分かった時には末期だった。深い悲しみが父と私たち家族に広がった。最初は病院に入院退院を繰り返していたが、抗がん剤が効かなくなり、父が家で過ごすことを希望し在宅での看護が始まった。父は病院ではなかなか食べられなかったご飯もしっかり食べられるようになった。弟にマッサージをしてもらうのも気持ちが良さそうだった。家で映画を見たり、外食したりするのも父の楽しみだった。私も父の落ち着いた表情を見ると安心した。
父が在宅ケアになって家族でいる時間が増え、悲しみの中でも充実した日々を送ることができた。電話をかけたらすぐに来てくれる訪問看護の人が心強かった。訪問診療も、24時間体制で、血液検査から、超音波検査、輸血までしてくれた。そして痛みは体に張るシールのような痛み止めと飲む麻薬でコントロールされ、最期まで強い痛みはなかった。入院していると病院が遠く週に一度くらいしか会いに行けなかったが毎日家に父がいた。この本の幸せそうな患者さんの姿が父と重なった。
父が日に日に弱っていくのを見るのは辛かったが、父と過ごした時間は私たち家族にとって父との絆を深めたかけ替えのない時間となった。人は誰でも死を迎える。内藤先生の本のタイトルのように、最高に幸せな死の迎え方があるとしたら、愛する家族のもとで、家族に見守られながら最期を迎えることではないのだろうか。私は父の最期は幸せだったと思いたい。日本ではまだ地域まで在宅医療は浸透していない。希望するすべての人に幸せな死が迎えられるよう私もできることをしていきたい。
(内藤いづみ 著 『最高に幸せな生き方死の迎え方』2009 オフィス エム)