死というタブーを超えて
(高齢者住宅新聞 2019年5月22日より)
在宅ホスピス医として、道なき道を切り拓いてきた日本におけるパイオニアの一人、内藤いづみ医師。
テレビ・ラジオなどへの出演や著書も多数の内藤医師だが、2019年幕開け早々に新刊を世に送り出した。
タイトルはズバリ『死ぬときに後悔しない生き方』。
これまでの本と根底に流れるテーマは同じでありながらもへ少し違った味わいの本に仕上がっている。
「死というタブーを超えて」
生きる今日に集中するための一冊
「これまで私の本を読んだことのなかった娘が、初めて私の本を読んで、『お母さん、8割以上フィクションでしょう』と言うんです」と内藤医師。人物の名前など多少の変更は加えているが、「『9割以上、ノンフィクション』と答えたら驚いていましたね。『話が出来すぎている』と」
看取りの実話とエッセイとで構成されたこの本は、死について、人生の最終章について考えるための本という側面はあるが、それ以上に生きること、生に焦点読まれているんです。顔見知りの方が、『買って読んでいる間におばあちゃんに持っていかれて。毎日1章読んでは、食卓で話題にするもんだから、本なんかまったく読まないお父さんが読み始めちゃって。「この本は泣けてきてダメだ」と言いながら読んでいました』なんて感想を伝えてきてくれる。これまでにはなかったことです。おばあちゃんまで読んでくれているれているかと思えば、中学生の子まで読んでくれていてへ多世代に読まれているのも特徴ですね」
これまで内藤医師の本を読んだことのなかった層にまで届いているのは、吉本ばななさんが帯を書いてくれたことも大きい。「うち(ふじ内科クリニック)看護師さんが吉本ばななさんのファンで、『どくだみちゃん』というエッセイを見せてくれました。読んだ瞬間、『この人はわかっている人だ』と確信、『吉本ぱななさんに帯を書いてもらう』と言ったら、彼女もさすがに呆れていましたね」
決めたら即行動。忙しい人にもすっと読んでもらえるよう、あえて一筆箋に短いながらも、想いをしためて、編集者に託した。一度は「面識のない方の本の帯はお断りしている」と丁寧なお返事を編集者から受け取ったその直後、帯の文が届いた。この本の魅力は、その帯の言葉に凝縮されているといっても過言ではないが、死を恐怖に感じているのなら、この本にたくさんの力をもらえることは疑う余地もない。
死を語るにもかかわらず、思わずクスリと笑ってしまう酒脱さは、内藤医師の持ち味だが、「私のは落語に近い。庶民のリアル。みんなの物語。だから、私には真似できない、ではなく、私にもできそう、となる」と表現する。いたるところにユーモアが散りばめられた、市井の人のリアルな話は、かならずどこかにその人に刺さる部分があるが、どこに刺さるかは千差万別、本当に人それぞれだと言う。どのエピソードも捨てがたいが、私が一番好きなのは、昨年末看取った内藤医師の母である富士丸さんのエピソードだ。
内藤先生は、医師として目の前にいる人の人生の最終章を支えるが、同時に最後の友人の一人として「いのちに近づく」。命が終わりを迎えるとき、たくさんの人に囲まれていなくても、もう一人誰かいればよいと「二人からのコミュニティ」を唱える。たとえ、身寄りもなく、ご近所付き合いのない人だったとしても、人生の最終章に立ち会う医療・介護職もまた、専門職としての力を発揮しながら、最後の友人として「二人からのコミュニティ」の一員になり得る。
そして、看取りとは、「登山と同じです。旅立っていった人を大切に思う家族や周りの人たちを麓に連
れて帰るまでが仕事」と、グリーフケアの大切さを説く。
文・医療福祉ライター今村美都