エッセイ

看取りの朝

何年も関わった癌の患者さんが旅だったのが、三日前。具合が悪くなったのは二日だけ。大往生。
家族とともにすごした日々。

私も何とかお役にたてて安堵していたら、近所に住みご縁のある方が急に具合わるくなり往診を依頼された。
主な主治医は大病院だけれど、本人が病院嫌いで家をのぞんでいた。
家族がその思いを受け止めた。状況は厳しい。短期間で死に向かっている。
制度を利用した在宅チームをつくる余裕はない。私が全面でがんばるしかない。
クリニックの看護師さんたちにも手伝ってもらう。夜中の呼び出しにも備える。
熟睡はできない。
しかし交感神経が興奮して?アドレナリンがでているのか疲れは感じない。
ご本人は強靭な体力と精神力があり、頑張っている。身内が集り賑やかだ。
孫さんたちも寄り添っている。いいお爺ちゃんだったのが判る。
いい所も欠点も全て受けいれて笑顔で寄り添う奥さんはまるで菩薩さまのようだ。
四日目。早朝に自転車で往診をした。
もう少し頑張ってみんなといっしょにいたいようだ。息子がお父さんの頭をなでる。
私もいったん帰る。とちゅうで緑ヶ丘公園で休む。

美しい若者たちが走っている。小鳥たちも鳴いている。
写真のモニュメントは船出という銘。
患者さんの船出は近い。