エッセイ

風を届ける人になる

クウネル2019年7月号より


たとえば寒い冬。朝は体が縮こまり、防寒主体の身づくろいをする。おしゃ
れ心は凍っている。たとえば灼熱の夏。汗をかいてぐったり。おしゃれ心は蒸
発している。
最近の厳しい社会環境の中で、エネルギーを消耗して「やっと生きているなぁ」と呟く。そんな瞬間はありませんか?
私は人生の最終章を家で送る方々を支える医者です。
ある85歳の女性患者さんは、難病で歩くのもやっと。お花を育てるのが大好きで、ひとり暮らしをつらぬきました。「心と手をかけて愛でて下さいね」という言葉を添えて、私にもよく鉢植えのお花を下さいました。彼女自身がお花のようにキラキラ輝いていました。
私の母はお化粧が大好きでした。「お化粧は社会貢献よ」とウインクして毎朝眉をきれいに描くのでした。96歳で亡くな
るまで手元に眉墨がありました。
他のいのちに寄り添う前に、まず自分を整え大切に手当てする。その毎日の積み重ねこそが本物の輝く「生きていく」いのちに育っていくのだと思います

在宅で過ごす人に、外からの香しい風を届ける人になれたら幸せです。