幸福寿命をめざして
少子高齢化が進む日本社会で、高齢者の皆さんがいのちのリアリティを失い不安を募らせ、自分の人生の最終章を生き抜く自覚を持てない様子にこの頃よく遭遇する。健康寿命には①血管年齢②骨年齢③腸年齢が関係しているという。
(大乗2010年8月号より抜粋)
しかし、これだけで幸せで豊かな寿命といえるだろうか? トータルないのちに向かい合う仕事 (在宅ホスピス医) の私は、これにさらに、④社会参加力 (仲間力) ⑤勇気ある死生観の確立を付け加えたい。幸福感には他者との嫁が深く関わっている。
在宅ホスピスケアで六十八歳の男性の末期がん患者さんと知り合った。ついに危篤の時が近づいた。大雨の夜、私は往診した。
「家で過ごせてお幸せでしたね」 と耳元でお話しすると、額き小さな声でこう答えた。
「先生、今までありがとう。お忙しいからお体に気を付けてくださいね」
息もたえだえな危篤の方からこんなねぎらいの言葉をいただけたことに感謝を捧げた。その方はその二時間後に、家族に囲まれ幸せな六十八歳の人生を全うして静かに息を引き取った。皆さんにも覚悟ある余生を一度考えていただきたい。