内藤いづみ著書

看取るあなたへ

昨年、薬学の大変レベルの高い雑誌でなぜか死生学のリレーエッセイが始まり、一冊の本になった。編集者の山岡さんの感性と問いかけに、ターミナルケアに長年関わる者たちが素直に反応したのだと思う。

彼女の丁寧な関わりに著者の多くが開襟を開いたのではないだろうか。
この本の著者で看取りの現場にいる誰もが、丁寧に命の時間に向かう仕事をしている。
丁寧さには、ことさら敏感な面々である。
河出書房新社の高野編集者の感性と丁寧さにも私は感謝している。

終末期に寄り添う家族が、もうできません!私の方が先に逝ってしまいます!と
根をあげそうになった時の支え手として私たちがいる。。
大丈夫、みんないるよ、という言葉は患者本人だけでなく、家族へ、そして看取りの仲間に
向かって捧げられたものだ。
昨今の看取り、施設、病院、在宅では、私の目からみて、えー、困ったなあ、という場面をよく目にする。
どう、困ったかは、また山岡さんと高野さんに伝えたい。私は、実践者であると同時に社会的発言者であることを自覚している。親からの薫陶かしら(笑)ぜったい、そう。

とにかく、この本を手にとってほしい。装丁も静謐で明るい。
表紙は我が師匠永六輔さんの、見上げてごらん夜の星を、を思い出す夜空。実は帯の文は私の文章から。人知れず、えへんと自慢。
私だってたまには威張りたい(笑)
帯の裏は徳永進先生。名文。素敵です。

先週の看取りは94歳の末期癌の女性。ギリギリまで自立して1人暮らし。
県外から来た息子さんが3ヶ月付き添った。
看取りの仲間で息子さんの背中を支えた。ゆっくりしたターミナルの時間だった。
冷静な医学的な観察と忍耐力でその方のいのちの時間に合わせることができた。
社会から忍耐力が減っている。即席の看取りが増えていないだろうか。
そのことに気づかない人も多い。

看取るあなたへ。在宅でも、施設でも、病院でも。
きっとくるその時のために、私たちの思いに触れて欲しい。

内藤いづみ