往復書簡

初心者のためのワインQ&A 1

東京に出ると、ワインをたくさん揃えているレストランが多くなった。しかし、どう選んでいいのか分らない。悔しいけれど、ソムリエ任せである。「山梨県出身」と言い出しづらいくらいワインの知識がない。ワイン研究家と言っていいほどのうんちくのある友人も多く、話を聞くとたくさん教えてくれるが、難しそうでかえってワインの深く広い世界に近寄り難くしている。折角ワイナリーのある県に住んでいてもったいないゾ!と最近思いだした。


ウイスキーに関心のなかった私が、スコットランドに住んでいる間、ウイスキーのディスティラリー(Distillery)蒸留所を訪れて、地元のモルトウイスキーを一口飲んだ時、水割りしか知らなかった喉の扉が開いたように感じたものだ。それ以後、生意気に「モルトは美味しい!」などと言っている。
何事にも、良き教師が必要で、そして求めれば与えられる!(酒の神バッカスに感謝)。私の親戚の、兄のような人(Aki)が、ワインの専門家だったのだ。忙しいところを無理に頼み、このQ&Aを始めることにした。
皆様の慌ただしい暮らしが、ワインの一滴で豊な彩りを添え、明日への活力となりますように。
~Aki兄さんへ~
ワイン生産量が多く、ワイン王国を誇る山梨県です。私が覚えている幼い頃の思い出のひとつは、田舎の家々では、軒下にすずやかなブドウ棚を作り、収穫の後は、自家用のブドウ酒を作っていた風景です。桶の中でブクブク出た泡を子供たちは覗き込み、発酵の香りをクンクンと嗅ぎました。たぶん、出来上がったブドウ酒を一口くらいは味見させてもらったかもしれません。ブドウ酒は身近にありました。
日本の経済発展に伴う農業の変化、田舎の変化、そして色々な種類のアルコールの登場もあって、ブドウ酒の存在は薄くなったのでしょうか?少なくとも、地酒としての代表選手ではなくなった時代が長く続いています。日本人の生活が贅沢になり、そして外国でのワインをめぐる食の豊かさの憧れもあって、逆輸入のような形で、ワインの第一のブームが起きたように私は感じていますが、Akiさんのご意見はいかがですか?
最近では、ワイン作りに情熱を傾ける、山梨県の地元の醸造家も目立ってきて楽しみです。しかし、ブームを本物にするためには、地酒としてのワインを愛する地元の人たちの力を大きくすることではないかと思っています。乾杯に、まずビール、まず焼酎ではなく、まずワイン!と心から選ぶ人が増えてほしいのです。北海道の池田町はワインで有名になりましたが、町民には、「ワイン町民割引」という制度があり、そこに住む親戚のおじさんが「美味しいんだよ。」と私が訪れた時に、嬉しそうに勧めてくれた顔を忘れられないのです。山梨県も地元の自慢として、そんな風にならないだろうか・・・と羨ましく思えました。
ワインの世界は広いですね。ひとりでも多くのワイン好きが増えるために、ぜひこの『初心者のためのワインQ&A』を楽しくよろしくお願いします。
Q.私も時々「美味しい」と思えるワインを口にします。美味しさの基準は人によってどう違うのでしょうか?
Q.値段がまちまちで驚きます。なぜこんなに違うのですか?安いワインでも大丈夫ですか?
Q.2000円以内で、どこでも入手できて、ワイン通でなくても「美味しい」と思えるワイン、仲間との「かんぱーい!」に使えるワインを赤・白3本ずつ教えて下さい。

Aki兄さん(復)
~いづみさんへ~いのちの輝きのために日々奮闘されている記事を見るたびに感動するとともに、自分も何かのお役に立ちたいと考えていました。
そして今回、「初心者のためのワインQ&A」を始めたいとお聞きし、私の協力で皆さんの明日への活力になるのであれば、こんなにうれしいことはありません。
是非、よろしくお願いいたします。

 さて、「酒は百薬の長」とも呼ばれ、適度の飲酒は精神面からも健康によいとされてきました。フランスワインの中心地であるブルゴーニュ地方のボーヌ市には、ワインの売り上げ収益によって運営されてきたオスピスト・ド・ボーヌという病院がありました。現在は当時のなごりを残し観光名所となっていますが、ワインと病院という不思議な関係です。
 第一次ワインブームは、1964年の東京オリンピックから1970年の大阪万国博覧会あたりまでだと言われ、それまでは、ブドウ酒と呼ぶ方が親しみ易く、地酒としての製造量にとどまっていました。
しかし、食文化の欧米化に伴い、ワインはその消費量を順調に伸ばしてきました。
それでも日本のワイン消費量は、全アルコール類のわずか2.5%程度で、発泡酒等を含むビールの65%や日本酒の8%に比べ、まだまだ少ない量にとどまっています。   
山梨県は日本ワイン産業の中心地です。
しかし、近年はお隣の長野県や遠く北海道にもワイン専用ブドウ品種が増えてきました。
さらに、外国産ワインの輸入量も増え、平成8年頃には国産ワインの消費量を追い越すようになり、今や日本は世界中のワインを楽しめる国となりました。
Q&A
Q.私も時々「美味しい」思えるワインを口にします。美味しさの基準は人によってどう違うのでしょうか?
A.ワインの美味しさを測る基準に、
①色合い
②香り
③味わい
の3点があります。
①は視覚的なもので、濁りが無く透明感があるものを美しいと感じます。
だんだん慣れてくると色の濃さや色の種類でワインの熟成度合いや疲れ具合が解るようになります。
白ワインの場合だと、緑がかった淡い黄色が若くフレッシュな印象を与えてくれますし、赤ワインの場合だと、赤紫が強いときは比較的若く、また、オレンジ色が目立つようになると熟成期間が長いことを予想させてくれます。
②の香りは美味しさの重要な基準で、果実由来の香り(第一アロマ)や発酵に由来する香り(第二アロマ)、熟成による香り(第三アロマ:ブケ)に分けられます。
もっとも、コルク臭や酸化臭のようなダメージを受けた香りがあると最初から嫌われてしまいます。
香り対する好みは人それぞれで、フレッシュで果実味ゆたかな(アロマティック)ワインを好む人、落ち着いた熟成香(ブケ)のワインを高く評価する人など様々です。
しかし、何と言っても一番美味しさの基準が分かれるのは③の味わいだと思います。特に酸と糖のバランスは重要で、酸味だけが強すぎるものや、甘さだけが高すぎるものは嫌われます。
やはり、人それぞれに許容範囲が違うので、酸味のしっかりしたワインを好む人、辛口のワインでなければ受け付けない人など様々です。
このほかにも赤ワインにおける渋味の強弱などによってずいぶん受ける印象が変わります。
ワインには特に賞味期限は設けられていません。
それは「時間」と言う腕の良い職人によって、味わいがまろやかになり美味しくなってくるからです。
しかし、若くて新鮮なときの味わいが美味しくて大好きという人もいます。ワインというお酒の時の変化も楽しんでみてはいかがでしょうか?
※コルク臭:カビのような香り
Q.値段がまちまちで驚きます。なぜこんなに違うのですか?安いワインでも大丈夫ですか?
A.原料であるブドウの価格や価値、どんな製造方法か、また、市場の動向などによって値段が決まります。
日本の場合、生食用としてもある程度大量に栽培されているブドウ品種が加工用として流通するとき、価格は安くなります。
一方、ワイン専用種として収量を制限し、熟度の高いブドウを購入する場合の価格は高く、さらにそれが希少な品種のときには価値も上がります。
製造方法からは、樽などを使い貯蔵期間が長くなる赤ワインの方が白ワインよりも値段が高くつく傾向にあります。
また、濃縮された果汁を外国から輸入して造るワインは、かなり安い値段で売られています。
ワインと言えばフランスが有名ですが、誰もが意識するあまり、その実力以上に高い値段がついてしまっているものも見受けられます。
ワインは世界中のほぼどこでも造られていますから、選ぶ国によっては値段の安いものでも美味しいもの出会うことがあります。
購入するワインを見分ける目安として、ブドウの収穫年(ヴィンテージ)やブドウ畑・地域名、さらにブドウ品種名がラベルに記載されている場合(例外もありますが)は、品質も値段も高い傾向にあるので参考にしてください。
とは言っても、たくさんのワインがある中で、ゆっくりラベルを見る(読む)のは大変ですし、値札から探す場合が多いと思います。
安いワインでも大丈夫ですが、品質面においての妥協や覚悟は必要です。
Q.2000円以内で、どこでも入手できて、ワイン通でなくても「美味しい」と思えるワイン、仲間との「かんぱーい!」に使えるワインを赤・白3本ずつ教えて下さい。
A.この質問に答えるのはかなり難しいですね!
特にどこでも入手できるワインとなると、インターネットで取り扱われているか、全国のコンビニに共通して置かれているワインとなるからです。
そこで、ワインにあまり馴染みがない人でも「美味しい」と思えるワインの傾向をお話ししたいと思います。
それは、白ワインだと、ブドウを連想できるような果実味ゆたかな香りを持ち、酸味のあまり強過ぎないもの。
赤ワインだと、やはり酸味を抑え、渋みの少ない軽い味わいのものを飲み易く感じる傾向にあります。
ワインを選ぶときに自分で探せるようになると楽しいものですが、ワインを販売しているお店の人のアドバイスを受けてみるのも良い方法だと思います。
ワインは保管方法によって早く老いてしまったりすることがあるので、商品の回転が良さそうなお店を見つけ、自分の好みや希望を伝えてみることです。
きちんとしたお店の場合、ワインアドバイザー等の資格を持った人がいて、丁寧に応対してくれる時代になりました。
そんなのお店が近くになく、スーパーなどで購入する場合には、ビンのラベル(表または裏)に書かれている生産国名やブドウ品種名を参考にしてください。
一度試したものから輪を広げるような感じで、国を替えたりブドウ品種を替えたりすると楽しみが増えていきます。
 さて、それでも何とかして「かんぱーい!」に使えるワインを選ぶとなると、今回は国産ワインの中から、それも山梨県産のワインから選出したいと思います。


白ワインは、山梨県を代表するブドウ品種である「甲州」から造られたワインです。
甲州
①銘 柄:グレイス甲州 2006年 1,890円
 会社名:中央葡萄酒(株)
②銘 柄:ルバイヤート甲州 シュールリー 2006年 1,660円
 会社名:丸藤葡萄酒工業(株)
③銘 柄:シャトー・メルシャン 甲州シュールリー 2006年 1,592円 
 会社名:メルシャン(株)勝沼ワイナリー


赤ワインは、世界的に有名なブドウ品種のカベルネ・ソーヴィニヨンと関係のあるものを選んでみました。

①銘 柄:シャトー・メルシャン ジェイ・フィーヌ(J-Fine)赤 1,592円
 会社名:メルシャン(株)勝沼ワイナリー
②銘 柄:シャトーマルス カベルネ・ベリーA 穂坂収穫 2006 1,590円
 会社名:本坊酒造(株)山梨マルスワイナリー
③銘 柄:プティ グランポレール 山梨甲斐ノワール 2005年 1,277円
 会社名:サッポロワイン(株)勝沼ワイナリー
以上、AKI兄より
*写真:山梨県ワインセンター小冊子より