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老いの日々を生き抜くためにできること

環境と保健 vol 26 No3秋号より
高齢者も、自分のいのちと老いに向き合って、自分らしく輝いて生き抜く智慧を必要としている。私は在宅ホスピスケアで、体・心・社会・霊的な存在としての人間へ向き合う大切さを学んだ。身体的な健康維持のみでなく、社会の一員であるための仲間力、死生観の確立、選択する勇気ある心を本人自身の力で養うことが、老いを幸せに生きる道に繋がる。

131011_01高齢期を生き抜く智慧
「もう治らない」と宣言された末期がん患者さんたちを前に、敗北感と無力感に囚われた新米医師の私は30年前、ホスピスケアという分野に出会い私自身が救われて、それ以来いのちの学びの旅を続けています。イギリスに1980年代暮らす間に、病気ごとに細分化された病院での対応ではなく、体・心・社会性・スピリチュアリティというトータルな存在としての人間を支えるホスピスケアの真髄に触れることができました。以後、帰国して20年以上日本での在宅ホスピスケアの普及活動に奉仕してきました。
イギリスで触れたホスピス運動は、病気に人生を打ち負かされそうになった患者さんが、いのちを自分の手に取り戻し、ホスピスケアのサポートを受けて、最期まで自分らしく生き抜く自立への支援でした。

老いの日々も“自立して”生きる
「自立」という言葉を色々な場所で最近よく聞きます。
「自分の暮らしてきた場所で、心身共パーフェクトでなくても、まあまあ健やかで、子供たちに迷惑を掛けず、認知症にならず、ぎりぎりまで自分らしく、自立して生き抜くのにはどうしたらよいでしょうか?長生きは望みません。自分らしさを貫けるのか、不安です。何か方法を教えて下さい」こんな問いかけをお年寄りから受けます。たくさんの健康情報に振り回されている人も見受けられます。
経済的に豊かなライフスタイルと公衆衛生の改善によって、長寿のお年寄りが増えた日本社会。国の介護と福祉制度に依存したままでは、老いのいのちの過ごし方も誰かが決めてくれるだけです。人任せにせず、自分のいのちを見つめ直し、今という時代の死生観を再構築する勇気をぜひお持ちになって頂きたいと思います。それが「自立」への第一歩です。
老化現象を「病気」扱いせず、上手く付き合い、折り合いを付ける道を積極的に探して下さい。

死生観を育てる
平和な日々を過ごし、高度医療の恩恵を受けてきた私たち。いよいよ老いやいのちの最期が近づいた時、自分の中に死生観が育っていないことに気づきうろたえる。そんな構図を多く見てきました。死生観を考えない大人が増えてきたのもこの50年間の平和な私たちの暮らしから、いのちの誕生と死、つまりいのちのリアリティーが薄くなってしまったことも関係しています。両方共、病院の中での出来事になり暮らしの中にないのです。お産も看取りも決して怖いことでも隔離すべきことでもなく、ダイナミックないのちのエネルギーの受け渡しであることがそのプロセスに触れるとわかります。私たちの看取りの現場では、幼い子供でさえ、安心して家族の中でいのちに触れています。現在、在宅でのいのちの看取りは全体の2割以下。病院以外でのお産の数は、本当に少なくなっています。老いの現実を受け入れながら、死生観を育て、上手く加齢の道を歩む方法はあるのでしょうか?
国は、在宅での看取りを強力に推し進めています。元気な時にこそ、自分と大切な人のいのちに向かい合い、深く、どう人生の最終章を送るのか、考える時がきています。自分のいのちの主人公は自分なのです。

老いを健やかに過ごすヒント
ウィリアム・オスラー博士(1849~1919)は、「人は血管と共に老いる」と言っています。
厚生労働省による「健康寿命」を延ばすポイントは①血管年齢(血管の柔軟性と反発力)サプリメントの効果の研究の盛んな分野です。②骨年齢 ③腸年齢です。私はこれに、④社会参加力(仲間力)⑤死生観の確立 ⑥自分で考えて選択する勇気ある心を付け加えます。人はトータルな存在です。体と心とスピリチュアリティと社会性が密接に結びつき、初めて総合的な人生の充足感と幸福感が得られるとホスピスケアから学びました。

チェックポイント
体のケア
①呼吸に注意を向ける。呼吸により体にある60兆億の細胞にあるミトコンドリアがエネルギーを創り出します。朝・昼・晩、戸外で深呼吸。自然に「ありがとう」という気持ちが湧いてきます。
②老化する体のメンテナンスは怠らない。でも神経質にならない。歯医者、眼科医、整形外科医、内科医、耳鼻科医とは仲良しに。
③食材などの健康情報にあまり振り回されず、地産地消の新鮮なもので、偏らないメニューを。塩、醤油、味噌、砂糖、油などの調味料には少しこだわって下さい。良質なたんぱく質は大切です。
④太り過ぎには気を付ける。(メタボリックシンドローム=内臓脂肪症候群を防ぐ)
⑤運動器機能低下(ロコモティブシンドローム)を防ぐ。転倒、骨折の予防、寝たきり予防。

以下をチェックしてみて下さい。
(ひとつでもあてはまると要注意です。主治医にご相談を)
□家の中でよくつまずく
□片足立ちで靴下が履けない
□15分程のウォーキングができない
□階段を上がるのに手すりが必要
□横断歩道を青信号のうちに渡り切れない
これを防ぐためには片足立ちとスクワット運動が薦められています。散歩、プ
ール歩行、ヨガ、ゴルフなどもお薦めです。

心のケア
誰でも不安になる時はあります。特に老いの暮らしは孤独に囚われます。一日1回思い切り笑いましょう。嬉しいから笑うのと同時に、笑うと嬉しくなる不思議な心のしくみがあります。ユーモアを磨く。ユーモアとは、自分を少し離れてみて笑える心の余裕。ユーモア川柳を一日一句作るのはどうでしょうか。

社会参加力(仲間力)
誰かの、何かの役に立つことをひとつ探し続ける。ボランティアの会、趣味の会など仲間のネットワークを創る。人は仲間なしでは生きる力が衰えます。体が少し利かなくなってもできる趣味を早めに見つける。自分で見つけることが大切。与えてもらうのを待っていると遅すぎます。

死生観
「今を生きる。今に感謝する」ということに集中するために、一日の終わりに「今日はこれが嬉しかった」ということを思い出し、日記を付ける。今夜が最期の眠りでも後悔しない日が来たら・・・最高の幸せ。人生の最期に「ありがとう」と伝える存在を作ろう。身内でなくても、友人でも、仲間でも。(犬や猫でもいいかしら?)

おわりに
私は自分の死生観などという立派なものを披露する自信はありませんが、もし、「人間はどこから来て、どこへ行くのか?」と問われたのなら、「人は星から来て、星へ帰る」と答えると思います。それは、古代から人が創ってきた神話にも重なります。天文研究の友人のおかげで、星空を眺めることやオーロラの存在を教えてもらい、いのちの視界が広がりました。私たちや植物や動物にいのちがあるように、私たちの住むこの地球にもいのちがあるのです。遥か昔、宇宙のどこかで寿命を終えた重い星が爆発し、宇宙にその元素がバラバラに散っていく。悠久の時間の後、また元素が集まりひとつの星を作り、地球のようにいのちを育む星も誕生する。「私の体は星のかけらでできている」そう教えてもらった時、私は懐かしい思いで星を眺めるようになりました。皆さん、夜、星空を見上げてみませんか?
今という一瞬を生きる私たちが、実は永遠という時の流れの中にいる不思議。繋がるいのちの鎖。そんないのちの不思議を皆さんも探して下さい。
いのちを運ぶ、この体と心を与えられた寿命の中で大切にいといながら・・・私たちがそこで生きていくことは本当に奇跡なのです。