在宅緩和ケアの実践の基本とコミュニケーション
2013年9月29日に東京有楽町よみうりホールで開催された「がん疼痛緩和と医療用麻薬の適正使用推進のための講習会」での私の講演内容です。
はじめに
日本社会の未来への流れは大きく変わりつつある。経済の形も、人口構成も、家族の在り方も、医療を取り巻く環境も。これからがん患者を支える活動は益々重要になるだろう。1980年代から日本では、武田文和先生を始めとする先駆者たちのがん疼痛緩和の啓蒙の努力で、進行がん患者の痛みの緩和の重要性への注目が全国的にもたらされた。その後、専門家の活動はがん治療の分野では緩和ケアとして、また市民の立場では自分たちのいのちを考える市民活動のネットワークとなり、全国で広がり、進行がん患者たちのいのちのQ.O.Lを高めることに貢献している。しかし、痛みの緩和への取り組みはまだ十分ではない。私たちの積極的な学びと実践が更に求められている。
在宅でのがん疼痛緩和の実際
1.十分なインフォームド・コンセント
武田文和医師は、がんの痛みに対する治療は「患者に聴くことに始まり、患者に説明することで始める」としている。在宅緩和ケア実践のためには、なるべく早く、深く十分なコミュニケーションをはかり、患者と家族の希望を確認(リビングウィル)し、疼痛緩和治療開始前に患者・家族に治療内容を伝え、可能な限りの了承を得ることが大切である。患者が主人公であるから。
また、患者に関わる在宅医療チームは24時間体制でケアにあたり、チームのメンバーは疼痛緩和の知識を十分持っていなければならない。定期的な学習会も必要である。
2.在宅でのコミュニケーション
DOS(Doctor Oriented System)とPOS(Patient Oriented System)
6つのポイント
① 在宅でPOSは確立しているか
② 20年の大きな変化
③ がん治療の発展
④ コミュニケーションの向上のために必要なこと
⑤ コミュニケーションの学習の場
⑥ 死生観について
3.在宅でのがん疼痛緩和を成功させるために
在宅において、がん疼痛緩和を成功させるためには、以下のような点が重要となる。また、適切な治療方針(表1)と痛み治療の目標(表2)を立てることも重要となる。
① 鎮痛薬の投与―適切な時期(タイミング)に適切な鎮痛薬を適量、適切な投与経路で投与する(言うは易しだが・・・)
② 導入時の十分な信頼関係の構築―患者と家族へ同時に十分な説明を行う
③ 副作用へのこまやかな対応
④ 安定期での冷静な観察(進行し、必ず変化が起きる)
⑤ 症状の変化時の迅速な対応と処置(この迅速さで信頼が高まる)
⑥ チームのメンバーが情報を確実に共有すること
まとめ
今やホスピスケアの理念は、緩和ケアに繋がって医療のひとつの分野として育ちつつある。がんによって引き起こされる苦しい症状を、緩和する技術は専門家によって広く一般医療者にも伝えられて、患者さんを全人的に支えられる人間力を持った医療者が今後更に増えることを期待する。このような講習会の充実を望むものである。疼痛緩和の知識と、コミュニケーションの方法を得ることにより、自信を持って在宅での進行がん患者を引き受けられる医療者が増えてほしい。
人生の最期を何処で過ごしたいか、と問われれば、愛する人の居る“家”でと望む人は多い。それを可能にするために国の制度も後押ししているが、患者さんが在宅を選んでも、がん患者を支える24時間体制の責任の重い在宅ケアの現場の医療側の受け皿はまだ多くない。また、サポート体制が乏しいのに、病院から在宅へ戻される患者さんが増えることも予想される。これらが今後の課題のひとつと思われる。在宅緩和ケアは、患者さんと家族が深く、“いのち”に向かい合う場。「ありがとう」と「さようなら」がひとつになる瞬間がそこにある。がんの痛みが緩和され、安心して在宅で過ごす多くの患者さんと家族の笑顔が私たちの活動を支える大きな力でもある。そんな笑顔が日本全国に広がることを祈っている。