能登から「福のお裾分け」
甲府・診療所に正月の縁起物届く(2024年12月29日山梨日日新聞より)
甲府市緑が丘1丁目の「ふじ内科クリニック」の診察室に、石川県能登地方に伝わる正月の縁起物「蓬莱」が飾られている。
能登半島地震で被災した同県志賀町の南進さん(88)から、10年来の交流がある院長で医師の内藤いづみさん(68)に贈られたもので、南さんの力強い筆致で「福寿」と書き込まれている。
被災地から年末に届いた「福のお裾分け」(南さん)に、内藤さんは「大変な中でも生きがいを見つけている姿に元気づけられた」と話す。
2人の出会いは、南さんが地元の老人会長をしていた10年ほど前、内藤さんを講演会に招いたのがきっかけ。以来、手紙や旬の特産品を送り合うなど交流を続けている。
蓬莱は能登地方の正月飾りで、紙に「福寿」などの文字が表現されている。南さんは手先の器用さを生かし、独自に蓬莱づくりをしていて、制作は今年で29回目になった。
地震発生時は外出先にいて無事だったが、自宅は「準半壊」の判定を受ける被害があり、約1ヶ月ホテルでの生活を余儀なくされた南さん。今も自宅の修繕は手つかずだが、「28回続けてきたものを地震で途絶えさせたくない。能登の人に元気になってほしい」と筆を握った。
9月下旬から制作を始め、11月までに大小合わせて計4千枚を「気力で書き上げた」。
作品は横が約50センチ、縦は約40センチと約20センチの2種類で、印泥を使い「進」と「寿」の自作の篆刻(てんこく)も押している。
作品は例年、県内外の知人に無料で配布。内藤さんにも毎年約100枚が届いていて、内藤さんは患者や近隣の店舗などに配っていた。
「今年は、地震で力を落としてしまって書けないだろう思っていた」が、12月に、例年通り送られてきた。
内藤さんは「昨年より福々しくていい字ていなっている。潭身の作品」と心を打たれたといい、「誰かのために書くことで、南さん自身も励まされたのではないか」と推察する。
26日に、診察室入り口に飾っていた前回の蓬莱を外し、貼り替えた。「大きなトラウマ(心的外傷)を抱えている中でも、生きがいを見つけ、自分の世界をつないでいる人がいることを知ってほしい」と内藤さん。
南さんは「発生から1年たってもまだまだ不自由な人がいる。蓬莱を通して、能登に関心を持ち続けてもらうことも、復興の礎になる」と話している。