ホスピス記事

私たちは誰もが、希望にあふれて生まれてきた

LOVE&HARMONY2022年秋号「いのちの授業Vol.11」より

Love&Harmony2022秋号

君は一人じゃない

在宅ホスピス医として、患者さんの看取りをさせていただきながら、講演活動もしています。ある高校で講演をしたことがあります。
とても厳しい環境で生きている生徒が多かった学校です。
生徒たちには最初に「君たちは今ここにいるけれど、一人でここまでになったのではないよね」と話しました。
「あなたが生きてきた15年、17年の間に、きっと誰かが助けてくれているよ。隣のおばちゃんにご飯をもらったとか、道に飛び出そうとして、親切な人が危ないよと止めてくれたとか、誰かに助けられているよ。あなたたちは絶対一人じゃない」と。それからホスピスケアの実例を見せながら、未来がないと言われている人が必死で最後まで生きていることや、「人生の宿題」についても話しました。
誰もが宿題をもらって生まれてきている。その宿題が何かを見つけ、皆さんの力で一つずつ乗り越えていってほしい。「誰も自分を助けてくれない」とか「人はみんな意地悪だ」と思っている人も、今立っているところで努力し続ければ、さまざまな「縁」が結ばれる時が来る。あなたたちは一人じゃないよと。最初はそっぽを向いていた生徒たちが最後は真剣になって、泣いていた子もいました。

いのちはエネルギーの塊

看取りの現場では、できるだけ、子どもにいのちと触れさせるようにしています。
「人の体にはエネルギーがあって、それが血液を巡らせたり体を動かしたりしています。心を使って笑ったり怒ったりもする。けれど、そのエンジンがだんだん止まってくる。でも、おばあちゃんにはまだ君がそこにいることは分かるから、優しく話しかけてあげて。その声が、おばあちゃんの大事なおみやげになるんだよ」
そんな話をして、脈を取ったり、体を拭いてもらったりします。故人と良い関係を結んでいた子には、「おばあちゃんの代わりに受け取ってね」と、人生の卒業証書(死亡診断書)を渡すこともあります。
現代は、こうしたいのちのうつろいに触れる経験が少なくなっていますが、大人がしっかり説明してあげれば、子どもは死を受け入れることができるのです。
私の看取りの記録を見て、出産のようだと言った人がいます。家族や私たちが死にゆく人の手を握って、「頑張ったね」「ありがとう」と声をかける姿が、出産の時にみんなでお母さんを「頑張って」と励ます姿に似ていると言うのです。
本当にそう思います。昔は出産も家でするものでした。生まれて初めて入るお風呂を「産湯」といいますが、亡くなる時にはひつぎに納める前にお湯で体を洗う「湯灌」という儀式があります。
私にとって、いのちはやけどするくらいに熱いエネルギーの塊です。生まれた時から、息を引き取るその時まで、変わらずに輝き続けるエネルギーです。だから、私は若い人たちにこう言います。

「今は困難なことがあったり、いろいろな不満や後悔があるかもしれない。けれど、私たちは誰もが、希望にあふれ、ピカピカな姿で生まれてきた。たくさんの手が「この世界へようこそ』とあなたを祝福し、受け止めたんだよ。そのことを思い出して」